1972_04_あの鐘をならすのはあなた_和田アキ子


今回の1曲セレクトは、「あの鐘をならすのはあなた」和田アキ子です。

まずはデータでする。

・タイトル    あの鐘をならすのはあなた
・アーティスト  和田アキ子
・作詞      阿久悠
・作曲      森田公一
・編曲      森田公一
・リリース日   1972年3月25日
・発売元     ビクター
・オリコン最高位 53位
・売上げ枚数 4.1万枚

最近は「ヒット」という概念が完全に変わってしまいましたね。
ヒット=CDが売れる事がすべてであり、大衆的にどの程度認知されているのか、支持されているのかっていうのは、ほとんど考慮されなくなってしまいました。
リリース直後にCDさえ売れれば「正義」、売れなかったから「敗北」っていうイメージになってしまっているじゃないですか。

まあ、確かに「商業音楽」と言う世界、「商売」な訳ですからCDが「売れる」ことは道義上最も大切な事ではあるでしょうね。

でもねぇ、エンターテインメントって言う世界、それですべを括っていいものなんだろうか・・・っていうと、そうじゃないよね・・・っていうのは、「売れた曲」好きなワタシにもあるんだよね。

そもそも、ヒット曲と売れた曲っていうのは、完全同義語じゃない事は、ヒット曲の世界に入った頃から分かっていたんでね。
いや、すぐにではなかった。 昔は、レコードが売れるってことが、その曲をより広く知られる大衆的な曲ってことであり、そういう意味でレコード売り上げとヒットは、ほぼ正の相関があったんだよね。 いわいるヒットチャートのチャートアクションも、今とは比べ物にならないくらい緩やかな動きを見せており、その間により多く「大衆」に広がりを見せたために起こり得た現象なわけだ。

でもね、売れた曲全てがそうだったのかというと、そうではない。 それほど爆発的な売れ方をしなかった曲でも、大衆的に認知された曲は昔はいくらでもあった。

その違いに気がついたのは、やっぱ「ベストテン」と「オリコン」のランキングに差があることに気がついてからだろうな。 つまりは、オリコンではそれほど上の順位に行かなかった曲でも、ベストテンでは結構高順位に行く曲があるって事。 それは週間順位ではなく、年間単位になるとさらに顕著になる事って事が分かってからなんだよね。

つまりさ、世の中、週間単位として爆発的に売れなくても、大衆的になれる曲はあるんだってことですね。


今回は、それが顕著に分かる曲をひとつ。

和田アキ子「あの鐘をならすのはあなた」。

この曲、和田アキ子さんの曲のなかでは、大抵の方が知ってらっしゃる曲だよね。

通常の感覚からみれば、それじゃさぞかし売れたんだろう・・・と思われがちなんだけどもね。 でもね実際は、業界的に俗に言う「左ページ」にも入ってないんだよね。

つまりは、オリコンで50位にも入っていない。 最高位53位、売り上げ枚数4.1万枚。

全く売れなかった訳ではないけど、ヒット規模で言えば、スマッシュヒットにも値しない、かなり小規模なヒットだったって事。

それでも、今では和田アキ子さんの代名詞的な曲になっているんだから。

それは、後年、例の「アッコにおまかせ」とか「レコード大賞30周年記念」で、これでもかって言うくらい流された、72年の「レコード大賞」最優秀歌唱賞をこの曲で受賞した時の、号泣シーン、いわいる「和田ゴンの雄たけび」と、「黒い涙」のシーンという、めちゃくちゃ強いインパクトシーンが、話題になったって事も大きかったんでしょう。

でもさ、それだけで、今でも認識されるような代名詞的な曲になるかというと、そんなに世の中甘くは無いと思うんだよね。

結局はさ、この曲自体のインパクトなんですよ。

個人的に72年というと、まだ3歳だからさ、この曲、リアルタイムでは聴いてない(と思う)し、当時、どういう扱いをされていて、大衆的にどの位の支持をされていたのかっていうのは、分からない。

だから、あくまで推測になるんだけど、おそらく、ほとんどの方は「後付」でこの曲を知ったんじゃないのかなぁ。
つまりさ、例の「インパクト」なあるシーンの後に流れる、この曲にビビビッ・・と初めて知った・・・と。

まあ、そうじゃなきゃ、72年当時、小ヒットって終わってしまった・・・って事も無かったろうしね。

ただ、言えることは、ヒット曲としての売れ方って、一つじゃないんだよね。 リリースした当時は売れなくても、後年になってから、改めて売れる曲もある。

売れる売れない・・・っていうのは、時代時代で変わって行くもの。そそそ、時代とどう折り合いがあるのかって言うのも大事な要素の一つなんですよ。
 リリースした当時は時代との折り合いがつかず売れなかった曲でも、後年、時代の空気が変わると突然売れる曲もあるって事。

だからねぇ、リリースした曲は1曲1曲大事にすべきだと思うんだよね。 最近の曲ってさあ、リリースされるまでは大量にプロモーションを打つけど、リリースされた瞬間に「はい、さよなら」っていう曲が多いでしょ。まるで使い捨てのように。 それじゃ曲が可哀想ですよ。もっと1曲1曲を大事にせにゃ。 その時は売れなくても、後年、どうなるか分かんないんだから。

ちなみに、和田アキ子さんの曲って、不思議なもんで、それほど売り上げ枚数が高くない曲で「有名」な曲が多い。
この「あの鐘をならすのはあなた」と同じように代表曲といわれる、「笑って許して」にしても「古い日記」にしても、「どしゃぶりの雨の中で」にしても、いずれもオリコンでベストテン入りしてない。

じや、オリコンでベストテン入りしてる曲って1曲もないの? っていうとさにあらず。
71年6月の「天使になれない」は最高8位。、同じく71年12月の「夜明けの夢」では最高10位まで行ってる。
でも、どちらも今となってはほとんど聴かれない曲だったりしてさ。



この曲で特出すべきところは、やっぱ、スケール感だよね。 よくモノの本に「天文学的スケール感」があるなんて書かれたりするけど、まさにそんなイメージだよね。

確かに、歌謡曲全盛の当時、結構大げさなイメージのデカイ曲もあった。例えば、尾崎紀世彦氏の一連の大ヒット曲とかさ、いかにもショービス的なスケールがデカイ曲があったりたじゃん。

でも、この曲、それと比べてもスケールのでかさは飛びぬけるもんなぁ。 

なんて言うのかな、空間認識的な広さっていうのかなぁ。 出だしの ♪ あなたにあえて〜 ♪ はメゾピアノで、比較的、狭い空気感であるのが、 ♪ つまづいて〜 ♪のBメロでは、やや力が入ったメゾフォルテ、 それから、♪街はいま〜 ♪っていうサビで力強いフォルテに移行する。

そして、最後の最後 ♪ あの鐘を鳴らすのはあなた〜 ♪っていうクライマックスでフォルテシモに持って行く。
間口の広い空間を感じるんだよね。 その間口っていうのが通常の曲の幅ではなく、とてつもなくデカイ空間に感じるんですわ。

そんな間口がでかい曲に、全く負けていない和田アキ子さんは流石な訳だし、このヒトじゃなきゃ、この曲のこのスケール感は伝わってこないわな。


それと印象的なのは、この曲のベースラインですねぇ。 そそそ、単純にコードの「根音」を追っていくベースラインではなく、ウネウネウネとまるで蛇がのたうち回っているように目まぐるしく動きまわるベースライン。
これですよ、この曲の真骨頂は。

というか、当時の歌謡曲には、こういうベースラインの曲ってあるんだよね。 それが70年代歌謡曲の大きな特徴でもあるんだけどさ。

当時のスタジオミュージシャンって「ジャズ」バンド上がりの方が多かった訳でさ。だからベースにしても、コードのルート音を単にペンペン弾くのではなく、ジャズのアドリブよろしく、勝手にアドリブをかけちゃうヒトも多かった訳よ。

この曲にしたって、こんなうねうね動き回るベースライン、きっちりと指定音符で譜面に書いてある訳が無いからさ、ほとんどアドリブだと思う訳よ。 でも、そこに「味」を感じる訳よ。曲を程良く締まらせているし。

いや、これも70年代歌謡曲を聴く上での楽しみの一つでもあるんだよね。 80年代になるとジャズ系出身のスタジオミュージシャンも少なくなって、この手のアドリブを利かせたベースラインの曲って少なくなるからさ。


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